お仁の一期一筆

第六十三筆「人生一〇〇年時代」

国連の推計によると、二〇五〇年までに我が国の一〇〇歳以上の人口は、一〇〇万人を突破する見込みだという。それに〇七年に日本で生まれた子供の半数は、一〇七歳以上生きることも予想されている。六五歳以上の人を高齢者などと言っていられない時代が確実に迫っているのである。

人が長く生きるようになれば、生活資金の蓄えが追いつかず、八〇歳ぐらいまでは仕事を続けなければならなくなる。こうした長寿化を厄災ではなく恩恵と捉え、一〇〇年時代の人生戦略を指南するビジネス書『LIFE SHIFT(ライフシフト)』(経済新報社)が版を重ねている。我も再読中である。

ロンドン・ビジネススクール教授二人の共書。優れた翻訳表現と内容ある説得力が、日本人読者に支持されているようだ。従来は、<教育→仕事→引退>という三つのステージの生き方で問題なかったが、寿命が延びれば、二番目の<仕事>が長くなり、多くの人は思っていたより二〇年近くも長く働くことになる。産業構造など社会も変わり、生き方の選択肢も増える。

我が国で言えば、一つの時代をつくった団塊世代を中心とした人たちの生き方は今後の世代には、参考にならないということである。人口減少や年金問題を克服しながら人生の途中で<変身>する覚悟も求められる、と著書にあった。

人生一〇〇年時代は、海図なき航路の始まりでもある。その時に欠かせないないのが人のネットワーク。<金持ちよりも人持ち>。我が人生を今も支える最強のシフトでもある。

第六十四筆「ダモクレスの剣」

ダモクレスの剣。繁栄の中にも危険が常に迫っていることを示す譬えである。紀元前四世紀、地中海に臨むシラクサの王が、天井に毛一本で剣を吊るした王座に、廷臣ダモクレスを座らせて、支配者の幸福の危うさを悟らせた故事に由来する。かつて米国ケネディ大統領も国連総会演説で引用した。

プッツン…。毛が切れたら最期である。猜疑と恐怖。権力を持つ者が味わう宿命。気の休まることはないだろう。ところが今、そんな状態に世界の指導者が陥っている。一万五〇〇〇発近い核弾頭が存在し、約一八〇〇発もの核兵器が、即座に発射できる<高度警戒態勢>に置かれている。異常な現実である。

さらに、ここにきて米国と北朝鮮が、戦争も辞さない強硬発言を繰り返している。「これ以上、米国を脅さない方がいい。世界が見た事もないような炎と怒りに直面することになる」と北朝鮮に警告したトランプ大統領。ダモクレスの剣が落下する寸前の恐怖を我は感じている。

核兵器を初めて法的に禁止する核兵器禁止条約が、国連本部で採択されたのが先月七日。核保有国が参加していないのは残念ではあるが、歴史的な一歩である。唯一の被爆国である我が国は<ヒバクシャ>のいのちの呻きを忘れてはならない。

冷戦末期、旧ソ連指導者は人間の意思では止められない核反撃システムを構築しかけたこともある。恐怖心の連鎖からである。核保有国の指導者が〝恐怖の呪縛〟から解放されるには、核の廃絶しかない。ダモクレスの剣の故事は、世界の指導者への教訓でもある。

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